概要
脳梗塞とは脳の血管が何らかの原因で細くなるか、つまってしまうことにより血流障害が生じ、その血管から血液を供給されている脳が壊死(えし)してしまう状態です。脳梗塞や脳出血など脳血管障害の死亡率は現在のところ、ガンなどの悪性新生物、心疾患に次いで第3位を占めています。降圧薬の進歩により脳出血が減少している反面、脳梗塞はむしろ増加傾向にあります。病態としてはラクナ梗塞、心原性脳塞栓症(脳塞栓)、アテローム血栓性脳梗塞(脳血栓症)の3つがあります。それぞれの割合は、ラクナ梗塞が50〜60%、心原性脳塞栓症が20〜30%、アテローム血栓性脳梗塞が20%程度です。生活習慣の欧米化とともに、現在ではラクナ梗塞が減少し、とくにアテローム血栓性脳梗塞が増加してきています。
症状
突然または数時間以内に神経脱落症状が出現した場合に、脳梗塞が疑われます。それぞれのタイプによってある程度特徴的な症状はあります。一般的には障害側の脳と反対側の半身に症状がでます。左の側頭葉の障害では失語症が生じ、脳幹部の梗塞では重篤(じゅうとく)な意識障害が生じ生命危機に瀕(ひん)することがあります。
1)タイプ別の特徴
[1]ラクナ梗塞
脳のどの部位の穿通枝動脈の閉塞かによって症状はまちまちであり、様々な症状(ラクナ症候群)を呈します。病巣部位によっては症状の出ない脳梗塞もあります。ラクナが生じやすい被殻や、内包後脚のラクナでは片麻痺(かたまひ)が生じます。ラクナの発生頻度が低い脳のラクナでは通常みられない症状がいくつかあります。失語、失行、失認などの皮質症状、単麻痺、同名半盲、健忘、意識障害、けいれんなどです。
[2]心原性脳塞栓症
脳に血液を送る正常な血管が突然閉塞されるために、症状の発現も多くは数分以内と突然です。そして脳の中の主幹動脈がつまるために、重症脳梗塞(大梗塞)になりやすいという特徴もあります。突然の強い意識障害などをきたすといった症状が現れるわけです。また、血栓が治療に反応し、溶解して再開通した場合、梗塞を起こした脳内で出血してしまう出血性脳梗塞に移行することもあります。
[3]アテローム血栓性脳梗塞
発症は心原性脳塞栓症に比べ緩やかで、数時間から数日かけて進行します。また、動脈の狭窄がゆっくり進むため、周辺動脈から血液が流入する「側副血行路(そくふくけっこうろ)」が多く、太い動脈の閉塞にもかかわらず症状が軽いことが特徴です。しかし、側副血行路の発達が悪い患者さんでは、重篤な脳梗塞発症の危険性が高まります。最も頻度の高い頸動脈では、頸動脈の狭窄が70%以上になると脳の血流が低下して血流不全状態となり、境界領域梗塞が発生しやすくなります。
2)特殊な虚血性病変
[1]一過性脳虚血発作(TIA:Transient Ischemic Attack)
突然発症した神経症状が、長くても24時間以内に消失する状態です。原因としては、頸動脈や椎骨動脈の粥状硬化(じゅくじょうこうか:アテローム)にできた小さな血栓の一部がはがれて脳に飛び、血管を閉塞するというものがほとんどです。血栓が比較的早く溶解し脳の血流が正常に戻ると、出現した症状も速やかに消失すると考えられています。TIAは危険な脳梗塞発作(大発作)の予告という意味で重要です。初回のTIAから5年以内に大発作が起こる確率は20〜40%程度です。
[2]出血性脳梗塞
血管を閉塞していた血栓の溶解により、閉塞血管の再開通が生じて、最初の虚血で損傷を受けた梗塞部位の血管が破れ、出血をきたす状態です。発症時期は、発症数日以内の急性期と、2〜4週目の亜急性期という二峰(にほう)性です。発症因子としては、重度の症状、広範囲梗塞、高度の脳浮腫(ふしゅ)、高齢者、高血圧、抗凝固・血栓溶解療法の使用などがあります。
[3]眼虚血症候群
視力障害が眼動脈の虚血により生ずる視力障害の総称で、一過性黒内障、網膜動脈閉塞症、虚血性視神経症が含まれます。眼動脈は内頸動脈から分岐しているため、眼症状から内頸動脈の狭窄や閉塞を察知して、脳梗塞の発症の予防につながる予知的な症候群です。一過性黒内障は、突然片側の視野に幕が下りたように暗くなり、数分後には自然に回復するものです。眼底所見上、網膜動脈の分岐部によく塞栓を認めます。この発作の前後に、よく反対側の片麻痺をきたします。
[4]無症候性脳梗塞、血管周囲腔拡大
無症候性脳梗塞とは、脳卒中の既往がまったくないのにCTやMRIで脳梗塞がみられるのみで、神経学的には何も症候がないものをいいます。日本ではMRI上のT2強調画像で高信号(白)、かつT1強調画像で低信号(黒)の3mm以上の限局性病変を無症候性脳梗塞と決めており、これより小さなものを「血管周囲腔拡大」とみなしています。脳卒中の発症率は、無症候性脳梗塞のある人では、ない人に比べて約10倍高いと報告されています。この無症候性脳梗塞は、60歳代から急増し、70歳以降では3人に1人に達します。リスク因子は加齢と高血圧であり、糖尿病や高脂血症は無関係です。このように無症候性脳梗塞のある人は、画像上で異常がみられ、将来脳血管障害を発症する可能性が高いものの、現在は症状がなく健康そうに見える、いわゆる“隠れ脳梗塞”と呼ばれる病態です。
診断
頭部CTやMRIが主流であることは周知の通りです。CTは短時間で終了する簡便な機器ですが、発症後2〜3時間以内ではほとんど梗塞部位を検出できません。MRIでは、拡散強調画像(DWI)が発症後1〜2時間以内の超急性期の病変を検出可能な撮影方法です。この時点では、T2強調画像でも確認は難しいのです。
さらに、脳灌流MRI(MRI perfusion image)やSPECT(スペクト)、Xe-CT(キセノンCT)などの脳血流検査では拡散強調画像(DWI)で梗塞の所見が得られる前に、虚血部位を確認できます。どの血管が閉塞したかを診断するには、MRIアンギオグラフィー(MRA)、3DCTアンギオグラフィー(3DCTA)、脳血管撮影(DSA)などが行われます。脳塞栓が疑われるときには、心臓内の血栓の有無を超音波検査で調べなくてはいけません。TIAでは、頸動脈の分岐部を中心とした動脈硬化性の病変の有無と程度のチェックが必要であるため頸部エコー、MRAが有効です。
通常では患者さんへの危険が比較的少ない検査(MRI、CT、エコー)から始めます。造影剤などを使用する3DCTAやDSAは、その次の段階で行われます。
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